あなたは、初めて恋をしたときの事を、覚えいるだろうか。
俺はと言えば、初恋なんて記憶の隅に追いやられた物にすぎなかった。
しかし、十年ぶりに偶然にも再会した、小学生時代の友人により、あの頃の記憶が鮮やかに思い出された。
俺の初恋は、小二の夏祭りで突然訪れた。
日焼けした肌にショートカットのすらりとした、同じ歳の少女だ。
あの日、俺は悪友達と共に夏祭りの舞台である神社の裏を、引き金を引くと輪ゴムが飛ぶ仕掛けの、針金でできた拳銃をにぎり走り回っていた。
物陰に身を隠しながら、敵を討つ。
合い言葉は「弾丸より速く!!」。あの時、流行っていた、ヒーローの決め台詞。
自分と、ブラウン管の中のヒーローを重ね合わせ調子よく連射する俺の輪ゴムは、悪友の横を通り過ぎ、見知らぬ少女の頭に当たった。
驚き顔で振り向く少女の顔は、何故か、祭り御輿よりも輝いて見えた。
しかしそれも一瞬、彼女に向けて拳銃を構えたままの俺の様子を見ると、怒り顔で詰め寄ってきた彼女を相手に、「おとこおんな!!」などと、お決まりの言葉で口げんかに応戦していた幼い自分がひどく懐かしい。
二人の喧嘩がどうやって収束したのかはもう、記憶の彼方だがその後、彼女も俺達の仲間になった。
俺の小二の夏は、彼女無しには語れないほど一緒に遊びつくした。
悪友にも、彼女にも隠し通したが、初めて人を好きになるという気持ちを知った。
夏休みを残り一週間程残したある日、彼女は、普段は隣県に住んでいて、夏休みの間だけ祖父母の家にいることを俺たちに明かした。
あの頃、宇宙より遠く感じていた隣県。そんな遠くに行ってしまうのかと、涙が出そうになった。
彼女と会ったのは、それから2日後の秘密基地での作戦会議が最後だ。また、来年の夏休みに会おうと、俺と彼女は泣いて誓った。
その約束が守られることはなかった。
しかし、昨日の出来事で色あせた記憶は、突然現実的な鮮やかさをもった思い出へと一変した。悪友の一人が彼女と大学で再会していたのだ。「お前のことも覚えてたぞ」という、言葉とともに彼女の連絡先を教えられた。
俺は、部屋で一人になると携帯をいぢり簡単なメールを作成した。
なんともいえない気恥ずかしさに、一瞬戸惑いがあったものの、覚悟を決めて送信ボタンを押した。
「弾丸より速く。この想い届け」
自然に口からこぼれたあの時の合い言葉に思わず苦笑いを漏らした。
このメールをみた彼女は、またあの時のように輝く表情をしてくれるのだろうか。
弾丸より速く!!-了